底知れぬ謎

底知れぬ謎に対ひてあるごとし 死児のひたひに またも手をやる(啄木) 毎回こんな感じでつぶやいてる人がいたら凄いな。

存在論の不思議病

「物理学者が、最終的にすべての基本的な波動と粒子、すべての基本法則を発見し、それらすべてを一つの方程式に統合した(表した)と仮定しよう。 では、なぜその式なのか? いま流行の説によれば、ビッグバンは、空間も時間もない真空におけるランダムな量…

現状認識

深い、と思うものも、つまるところ現状認識という点で透徹した眼差しを持っているに過ぎないというパターン。それは問いに対する答えではなく、まず問題そのものの認識であり、それがどういう種類の問題なのかについて、の卓抜な表現だったりする。そうそう…

世界で最初の言葉

「顔を顰め、むずかつている赤ん坊が、若しその理由を云いきり得たら、それは世界で最初の言葉だ。」 (「死霊」埴谷雄高) 「ところで、この世に生まれ出たそのとき、私たちはなぜ泣いたのであろうか。残念ながら、私たちのおそらく誰もが、そのときの心持ち…

不条理と神秘

人間が何の理由も無く突然生まれ、消滅する世界だったらどうだろう。それは不条理というものである。性というものが新しい生命を創造することの神秘も同じことだ。細胞が老化し、やがては死滅することの神秘も同じことだ。それがなぜだかはわからない。「そ…

不思議という感覚

「ああ不思議だな」私は口先だけで言った。言ってから、不思議という言葉の意味について考えた。たった今自分の口から出た不思議という単語に、私は何の感慨も込められなかった。そもそも私は、何かを目の前にして心を動かされるという習慣がない。たとえそ…

「窓の外」とは何か 岩明均「七夕の国」

丸神一族に伝わる特殊な能力の正体と、その力の由来、40万円の模型は何のためのものか、祭りや旗の図案など、いろいろ魅力的な謎が物語を引っ張っていく。それらの解明は一つ一つ、リーズナブルに説明されていき、ウェルメイドな伝奇ミステリーとしてもか…

池田清彦

「毎日学校に行くというのはクセでしているだけであって、厳密な法則に従っているわけではないことはだれでも知っている。いつでもサボることはできるのだけれども、ついクセで学校へ行ってしまうわけだ。三年間、土日、祝日以外は毎日律儀に学校に行って、…

存在論的な孤独

わからない、理解できない、ということには孤独感がともなう。疎外感といってもいい。世界の存在に疑問を持ち、その疑問は最終的にわかりえないようなものであるなら、やはりそこにも孤独があるように思う。世界と、世界に対して問いを持つ自分との間の越え…

愉しむ才能

「そう言ってから八戒は、自分がこの世で楽しいと思う事柄を一つ一つ数え立てた。夏の木蔭の午睡。渓流の水浴。月夜の吹笛。春暁の朝寝。冬夜の炉辺歓談。・・・何と愉しげに、また、何と数多くの項目を彼は数え立てたことだろう!殊に、若い女人の肉体の美…

仮の宿

誰も浮世は仮の宿 さのみ人目をつつむまじ

奇しき秘文

ある時はノヴァーリスのごと石に花に奇しき秘文を読まんとはせし (中島敦)

壺つくりとしての神

「神に口答えするおまえは何様だ?壺つくりは、同じ粘土を使ってあるときは貴き目的の器をつくり、あるときは俗用の器をつくる権利があるではないか」(ロマ人への書「誰も教えてくれない聖書の読み方」ケン・スミス著/山形浩生訳)この世の不合理・不平等…

マザコンとしての神

しかし、神というものが、全ての個々の<私>を内側から体験している、巨大な一つの<私>であるという可能性は考えられないだろうか。それぞれの<私>とは、もともと神である<唯一つの私>からヒドラ状に分岐派生した出先機関のようなもので、<唯一つの私>である…

テレパスと神

真のテレパシーが不可能であることは、論理的に証明できる。テレパスが他人の心を「感じる」とき、それを「自分の心で」感じるのでなければならない。でないと、「テレパス本人が」感じたことにならないからである。自分の心で感じている以上、他人の心を他…

私という現象

《私という現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です(あらゆる透明な幽霊の複合体)風景やみんなといっしょにせはしくせはしく明滅しながらいかにもたしかにともりつづける因果交流電燈のひとつの青い照明です(ひかりはたもち その電燈は失はれ…

音楽言語

最初はまったく未知の外国語をただ呆然と聞き流しているのに近い状態だったりする。語感の美しさ、話者が愉しげなのか哀しげなのかは伝わってくるが、何を言っているかはまるでわからない。しかし不思議なことに、何度か聴いているうちに、ところどころ、お…

交響曲ニ長調 K95

交響曲の全集はベーム指揮、ベルリンフィルの演奏のものを持っているのだが、だいたい初期の交響曲は一回聴いたきり放置状態だった。この曲にがぜん注目したのはスコセッシの映画「アフターアワーズ」のタイトルバックの音楽にこの曲の第一楽章が用いられて…

6つのドイツ舞曲 K509

初めてこの曲を聴いたのは映画アマデウスのダンスシーンだったはず。はずというのは、映画を観てすぐに気に入って早速調べたというようには当時モーツァルトの音楽に詳しかったわけではなく、あとで「アマデウスアンコール」という映画のサントラを入手し、…

ミサ・ブレヴィス K194

モーツァルト好きの神学者であるカール・バルトがラジオに出演したさいにリクエストした曲がこのK194だったというのを読んで、多少注意して聴いてみると、アニュス・デイが凄くいい。メランコリックな旋律から入って、ドーナ・ノヴィス・パーチェで一転して…

わが心

わが心深き底あり喜も憂の波もとどかじと思う (西田幾多郎)

奇妙な形而上学のコレクション

マーティン・ガードナー『哲学的駄文書きの疑問集』からの引用。「数学者のI.・J・グッドが『科学者は思索する』という、”生半可なアイディア”を集めた愉快なアンソロジー本の中で、生れ変わりモデルの奇妙なヴァリエーションを提案している。グッドはそれを…

「全重苦」の

昔読んだ埴谷雄高の本のエッセイの中に、ヘレンケラーの見えない・聞こえない・話せないの三重苦だけではなく、触覚、嗅覚、味覚なども含めた、外部世界と一切の交感を遮断された「全重苦」の人間の意識はどのようなものか、という想定があった。(どういう内…

けものめく

けものめく顔あり口をあけたてすとのみ見てゐぬ人の語るを (啄木)

存在論的な孤独

「さらに一段低い次元に降りる、と、奇々怪々な現象が現出する。すなわち、外部世界は《ぶ厚いものだ》ということに気づき、ひとつの小石がどれほど無縁なものか、ぼくらの世界のものたらしめるのがどれほど不可能であるか、自然が、あるひとつの風景がどん…

迷宮の中の記憶喪失者

「天をついて聳えたつ館。それは外界から隔絶され、ひとつ屋根で覆われた巨大な都市のごとくであった。果てしなく続く、見も知らぬ1000のフロア・・・・。館の中、おれは記憶を失った状態で目覚めた。わずかな手掛かりから得られたのは、どうやらおれが…

この宇宙という奇怪な町

いかにしてわれわれは、われわれの住むこの世界に驚嘆しながら、しかも同時にそこに安住することができるのか。いかにすればわれわれは、この宇宙という奇怪な町、二本脚やら四本脚やら、はては百本脚の市民の住むこの町、物凄まじくも太古から輝きつづける…