交響曲ニ長調 K95

交響曲の全集はベーム指揮、ベルリンフィルの演奏のものを持っているのだが、だいたい初期の交響曲は一回聴いたきり放置状態だった。
この曲にがぜん注目したのはスコセッシの映画「アフターアワーズ」のタイトルバックの音楽にこの曲の第一楽章が用いられているのを知ってからだ。いや、正確にいうと、当初はノリのいい曲だなくらいにしか思っておらず、ずいぶん後になってこれがモーツァルト交響曲だと知って慌てて手持ちのベーム盤で聴き直し、まるで違う印象に愕然としたのだった。映画で使われた演奏(たしかさして有名でもないアメリカの古楽のオーケストラだったと思う)はベームの指揮に比べずっとテンポが速く、タイトルバックのテロップの見せ方のシャープさと相まって、畳み掛けるようなドライブ感があった。
私のようなド素人がベームの決めたテンポに文句を垂れるなどはこんなブログの片隅ででも恐れ多いが、まぁこの曲は疾走感があるほうがいいと思いますですよ。
こんな経緯ゆえ私の中でこの曲はモーツァルト交響曲の一つとして聴くよりは「アフターアワーズ」のサントラとして位置づけられてしまったが、とりあえずあまり話題にのぼらない名曲ということで一つ。(*1)

ちなみにこの映画は80年代の映画では個人的にベスト5に入るくらい好きな映画だ。
明るいカフカとでもいうような不条理コメディで、一種の女難映画でもあり、スコセッシの神経症的な演出が魅力を放っていた。(ついでに言うと、主人公のコンピュータ技師であるグリフィン・ダンが、同僚の愚痴など聞かされるうちになんだか虚しく感じられる日常から一瞬意識が遊離してしまう瞬間にG線上のアリアが絶妙のタイミングでかかるのも良かった。)

*1 レコ芸編「モーツァルト名盤大全」でこの曲を調べたら、モーツァルト作曲という確たる証拠がなく、厳密には疑作扱いになってるということを知り、ちょっとショック。